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『貴方をどれだけ好きか、アナタだけが知らない。』 (by hana)
「手ぐらい繋ぎませんか」
初めてのデートだった。
デートらしいことは何もなくて、ただ二人歩いただけだった。
秋風の吹く、近所の河原を。
土手の上を歩いていると、下のグラウンドから子ども達の声が聞こえて来た。
野球とかサッカーとか。
この前の台風で水に沈んだグラウンドがいつの間にか整備されていて驚いた。
チラリと様子をうかがうと、カカシも子ども達を眺めていた。
その横顔が驚くほど優しい。
やっぱり子ども、好きなんだな。
胸が痛む。
カカシがイルカの先生だった時は高校教師だったが、元々は小学生を教えていたと聞く。
病気で一度辞めて、イルカの母校へ臨教としてやって来た。
教わったのは高3のほんの一時期だったが、丁寧な分かりやすい授業でイルカは好きだった。
『親の希望が志望校じゃないんじゃないの』
授業をさぼって屋上に居たら、声をかけられた。
担任でもなんでもなかったから、本当にただの気まぐれだったんだろう。
時々会う度、少しの話をして。
いつの間にか気になってその姿を探すようになっていた。
在学中は卒業したら会う理由がなくなるなんて考えもしなくて。
卒業の日、携帯の番号を教えたら一度もかかってこなかった。
こっちから掛ければ話すくせに、自分のことは殆ど話さない。
会いたくて側に居たくて、教職の勉強をして。
4年。待った。
準備をして力を溜めて。
母校に教育実習に行ったらカカシは居なかった。
本当に、自分のことは殆ど話さない人だ。
憎らしいほど。
学校を辞めたなんて、聞いてなかった。
「男同士で? 不味いでしょ」
「俺は構いません」
「PTAが五月蝿いよ」
「貴方が居ないなら、教師になる意味なんかないです」
「『オレ』が志望動機なの?」
カカシは静かに笑って。
「止めときなよ。もっと好きなこと、見つけたほうがいい」
「貴方が好きじゃ、ダメですか」
「うん、ダメ。オレはイルカの事、それ程好きじゃないからね」
「知ってます。でも俺たち、付き合ってるし」
必死で言い募るイルカの前で、カカシは乾いた笑いを浮かべた。
「そんなにいいもんじゃないよ」
悔しくて、イルカは強引に手を繋いだ。
「俺は、アンタが好きなんだよっ」
「知ってるけど、趣味悪いよね」
「大きなお世話だっっ」
カカシの手を引く。
握り返されない手を、強く握り締めて歩いた。