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カカイルSS『硬く硬く、心が凍っていく。』 


現代パロの続き。
テンションの低いシリアスです。
次で終るといいなぁ。

イルカ→カカシ。


あ、これ口頭で書きました。口頭だと無駄にモノローグが長くなる、っつーかぶっちゃけポエムだよね!
と思いました。
でも書くのは簡単だった。恐ろしい。。。







『硬く硬く、心が凍っていく。』 ( by hana )

 

知り合いに頼まれて高校の臨教の職についた時、カカシはやる気があまりなかった。
主要教科ではないし、高三ともなれば受験勉強に重点が置かれ、カカシが教えるような授業は隠れ自習に使われることが多いだろうと予想していた。
それでも真面目に授業計画を立てていたのは習い性というヤツだろうか。
教室を一瞥すると、半分ぐらいの生徒は顔色が悪く、受験に疲れているんだなというのがよく分かった。
多分、数年前の自分もそんな顔をしていただろうに、喉元過ぎれば暑さ忘れるというか、その頃のことがよく思い出せない。
クラスの中で、異色な生徒が一人いた。
受験対策で隠れ自習している生徒たちの中で、一人ぼんやりと窓の外を見ていた。
やる気のない態度が、いっそすがすがしいなと思ったもんだ。
しばらくすると彼は、授業にさえ出てこなくなった。
受験の差し迫った時期に、本当にいい度胸だ。
気がつくとその生徒のことが目の端に映るようになっていた。
だから屋上で彼を見かけた時に話しかけたのは、多分に作為的なものだ。
教室の中で孤高に見える彼に、ほんの少しの興味があった。
「さぼりか?」
話しかけると、彼は驚いて勢いよく振り返った。
授業をサボって堂々と屋上で昼寝をしていたのだ。サボりの常習犯と思いきや、意外に罪の意識があったらしい。
不味いところを見られたという顔をしていた。
その子どもっぽさが可愛くもありちょっと笑うと、その生徒は嫌そうな顔をした。
二言三言話して、あっさりと分かれる。
気がつくと会う度にほんの少しの会話をするようになっていた。
「俺、親が医者なんですよね」
その時初めて、彼はぽつりと零した。
医学部に進んで欲しいという親の希望と、宇宙開発に携わりたいと思っているらしい彼の希望が噛みあわなくて、志望校に迷っているのだと。
理系はどちらにしても金がかかる。迷っていると言いながら、医学部に進むんだろなと思ったのに、カカシはついぽろっと言ってしまった。

『親の希望が志望校じゃないんじゃないの』

彼はひどく驚いた顔をしていた。
余計なことを言ったな。
嘘ではなくても奇麗事だ。現実に進学するとなると金がかかる。
カカシ自身、現実に負けて高校の臨教の仕事を受けた。
自分のことは棚に上げて何を偉そうに言っているんだか。
柄にもないことを言った自覚はあったが、不思議と後悔はなかった。
彼に、少しだけ希望を託したのかもしれない。
好きなことをやって欲しいと。
卒業までのほんの僅かの間、彼とは何度か話す機会があった。
それも受験に紛れて忙しいまますれ違い卒業式を迎えた。
カカシは臨教ではなく、非常勤講師として来年も採用が決まっていた。
カカシは残るが、イルカは卒業していく。これきり会うこともないだろうと、少し親しくなった生徒を見送るのは、初めてではなくてもなかなかこう、切ないような寂しいような嬉しいような、なんとも上手くいえない気持ちがした。
「これ、俺のアドレスだから」
イルカにメモを渡された。卒業式の日に。
制服からボタンを剥ぎ取られて、ありがちな卒業証書を入れる筒を片手に掴んだイルカが息を切らせてカカシのところに走り寄って来た。
唐突に渡された紙を見ると、確かに携帯のアドレスが書いてある。
それで、と、カカシは皮肉な気持ちで思った。
イルカは可愛い生徒だけれど、卒業してしまえばそれまでだ。携帯電話の番号を交換して友達づきあいを始めるような、そんな関係ではない。
ただ、カカシにとってイルカは少し眩しくて、そのメモをつき返すことはできなかった。
捨てることも出来ずにポケットに突っ込んだまま忘れていた。
忘れたことを咎めるように、一週間も経たずにイルカから電話がかかってきた。
成り行きで携帯アドレスを教えてしまったことを、カカシは少し後悔した。
それでも忙しい大学生活に紛れて連絡は間遠になっていくものだろうと、深く気にするのはやめた。
そのまま4年。
イルカから母校に教育実習に行くと聞いて、カカシは潮時かな、と思った。
実は、非常勤講師は2年も前に辞めていた。
実質上の解雇。特に落ち度があったわけではないが、少子化に伴うリストラというヤツだ。
私立だったし初めてのことではないので、カカシはそれをあっさりと受け入れた。
ただイルカには言わなかった。
その時はまさか、イルカが教職をとっているとは思わなかった。
イルカも驚かせようと思っていたのだろう。
大学でのことを色々とおもしろおかしく話はしても、教職をとっているという話はしたことがなかった。
失敗したかな、チラリと思って、まぁいいか、と忘れた。
イルカがなにを思って教職を選んだのかは分からないが、そういうことであればいずれはばれたことだ。
これを機に連絡がなくなる可能性も、気楽でいい、そう流した。
イルカから電話がかかってきたのはその夜だ。
教育実習の一日目。カカシが何も言わなかったことを責めるかと思ったが、電話の内容は単純な呼び出しだった。
会って話したいことがある、と。
近くの公園で待ち合わせると、イルカは不機嫌な顔をしていた。
まぁそうだろう。親しいとは言えないが、教職を離れたことをイルカに黙っていたこと自体は少々後ろめたかった。
「何の用?」
あえて素っ気無い態度をとる。
何故イルカがカカシを構う気になったのかは分からないが、イルカもこれで社会人になる。
カカシみたいな男からは、さっさと離れた方がイルカの為だと思った。
イルカは鈍いから気付いていないが、カカシは色々な隠し事をしている。
イルカに話すつもりはないあれやこれやのことも、付き合いが長くなるにつれて隠しているのは難しくなるだろう。教職の件一つとってもそれは想像に難くない未来だった。
「アンタが、好きなんだ」
拗ねた顔で挑戦するようにイルカは言った。何を言われたのか一瞬分からなかった。
「ああ、そう。どうもね」
少し考え軽く流す。
怒るかと思ったが、イルカは変わらない調子で続けた。
頭を下げて、
「付き合って下さい」
何をしているんだ、この子は。
馬鹿馬鹿しくて笑い飛ばそうと思ったが、握り締められたイルカの拳が震えているのを見たら、適当にあしらえなくなった。
『いい』とも『悪い』とも言えないのに。
「そう。まぁ、ね」
曖昧な返事をしてしまった。
イルカはそれを都合よく解釈しないで、顔を上げてカカシを見た。
「もう一回言わないとダメ?」
もう一回? ちゃんと聞こえている。もう一度言われても応えられないし、彼にこんな事で頭を下げさせるのは、無駄な気がした。
それぐらいなら、ちょっと付き合ってさっさと幻滅して貰った方がマシだと、それが一番簡単だと、この時は思ってしまったのだ。
「オレなんかと付き合ったって、いいことないよ」
一応牽制しておく。
イルカはちょっと鼻白んだ顔をしたがその程度の拒絶でめげるつもりはなかったらしい。
「あるよ。俺にとって、アンタはすごく、大事な人なんだ」
可哀想だな、この子。
カカシは思った。初めて会った時、宇宙開発をしたいんだと言っていたのに、その夢を捨てたのか。カカシなんかのために。
頭いいのに。馬鹿だな。
馬鹿は嫌いじゃない。
そう思って気付いた。
嫌いじゃないのだ。イルカのことを。
まいったな。
気付かなければ良かったと、カカシは思った。
はっきりと返事はしなかった。
それでもイルカは付き合うことになったのだと、そういう態度をとることにしたようだ。
デートともいえないデートに誘われて、二人で出かけて。恋人同士というよりは、友達のような付き合いをしていた。
イルカのことは、少しの重荷だった。
一日も早く、飽きて欲しいな、と。
その頃にはもう自分から振ることも出来ないことに、カカシは気付いていた。
砂漠で乾涸びた旅人が一滴の水を口にしたかのように、カカシにとってイルカは小さな、たった一つの安らぎとなっていた。
だから、決して好きだと言わないことが、カカシに出来る精一杯の誠意と愛情なのだと。
そう、心に決めて。
イルカが早く飽きるように、気のない態度を取り続けた。
「俺はアンタが好きなんだよっ」
イルカが怒って、カカシの手を掴む。
この手を握り返せれば、世界は変わるだろうか。
そんなことはないと知っているカカシは、もう自分からでは手放せない、温かくて大きな手を握り返すことが出来なかった。
イルカがカカシを引っ張る。
イルカの進む先を見たくなくて、カカシは手を引かれる振りで、目を閉じた。
ずっと閉じていられればいいのと願い、そう遠くない日にこの手が離れて行くことを、改めて覚悟した。


 

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