忍者ブログ
0.01
カレンダー
03 2024/04 05
S M T W T F S
1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30
バーコード
ブログ内検索
アクセス解析
Twitter
[108]  [106]  [105]  [104]  [103]  [102]  [101]  [100]  [99]  [98]  [97

[PR]

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

カカイルSS『世界が優しくあるように、願った。』

現代パロの続き。ラストです。
相変らずテンションの低いシリアスで。
いやぁ、ぶっちゃけ面白くないです(苦笑)
なんでこんな話になったのかな??

イルカ→カカシ。

作中に出てくる前世は『散りぬるを』のイメージ。
これはもしかしたら、オンリーで出すかもしれないです。
壊れたPCからデータが取り出せれば(涙)








『世界が優しくあるように、願った。』 (by hana)



アパートに帰るとドアの前にイルカが蹲っていた。
妙な既視感がある。昔こうして、誰かを待っていたような気がする。
馬鹿なことを。
カカシは軽く頭を振って蹲る人影に近づいた。
「こういうことされると、ご近所迷惑なんだよね」
イルカが顔を上げた。
「遅い」
勝手に待っていたくせに、我侭な一言だ。
カカシは軽く肩を竦めて安っぽいアパートのドアを開けた。
当たり前のようにイルカが後について入ってくる。
上がり口の横の簡易キッチン。奥に和室が二間。古臭いちっぽけな部屋が、カカシが半生を過ごして来た場所だった。
訳あって、カカシには家族の記憶があまりない。
家族の代わりのような相手は居たが。
「相変らず何もないですね」
勝手に冷蔵庫を開けたイルカがビールを二本取り出してちゃぶ台の置かれた和室へ入って行った。
勝手知ったる他人の我が家。とはいえ、リラックスするのも程があるだろ。
「飲まないんですか?」
入り口で立ち止まったままのカカシを見て、不思議そうにするイルカに、カカシは肩を竦めひらひらと手を振った。
「勝手にやっててよ」
ネクタイを緩めて寝室代わりの和室に鞄を放る。
大分涼しくなったとはいえ、今日は残暑が厳しく、じんわりとシャツが汗ばんでいた。
安物のスーツをさっさと脱ぎ捨て、Tシャツとジーンズに着替える。
今の職場はそう厳しくなかったが、予備校とはいえ講師はスーツ着用が義務付けられていた。
そういう点では教師をやっていた時の方が楽だったかもしれない。
ちゃぶ台のある和室に向かうと、イルカが先にビールを開けて飲んでいた。
買った覚えのないおつまみが並んでいるので、イルカの手土産なんだろう。
母校に内定が決まっているらしが、大学生は気楽なものだ。
「胃に悪そうだね」
ちゃぶ台の上にはつまみとビールだけ。いつものこととはいえぼやいてみせる。
「冷蔵庫が空なのが悪いんでしょ」
呆れたような顔でイルカは取り合わない。
いつもこんな感じだ。
カカシはアナログの小さなテレビの電源を入れた。
民放の愛想のいいキャスターが簡単に今日のニュースを伝えている。
見るともなしに二人でそれを見ていた。
「大学生って暇だよね」
「暇って作るもんですよ。もう卒論も終ってるし」
簡単に言うが、この時期内定を取る為に走り回ってる大学生の方が多いだろう。
相変らず要領も頭もいいイルカの才能を垣間見て、カカシはもったいないな、とため息を吐いた。
「教師より宇宙開発の方が向いてたんじゃない」
嫌味を言う。
イルカは簡単に笑って流した。
どうせもうカカシは教師ではない。それを知った上でイルカが教職に拘った理由がカカシにはよく分からなかった。
教員免許を取るのと卒業後の進路は別だ。イルカは結局、理工系の大学へ進み、今からでも十分夢だった宇宙開発への道へ進むことが出来るのに。
疑問に思うが問いかけないままきた、イルカの横顔をぼんやりと眺める。
ニュースからバラエティに変わったテレビをイルカは楽しそうに見ていた。

 

こんな時間は長くは続かない。
ぬるま湯のような生活に慣らされる前に、引導を渡してしまおうか。

 

「前世って信じる?」
ビールをごくりと飲んで、カカシはテレビを見ながら気のない様子で言った。
「電波系?」
現代っ子らしい分かりやすい反応だ。
自嘲気味に小さく笑う。冗談なら、幸せだったんだろうか。カカシにはとてもそうは思えない。
この世界は、カカシにとって薄く曖昧で、手の届かない夢のようなものだ。
「信じなくていいよ」
イルカはテレビから視線を外し、真剣な様子でカカシの横顔に見入った。
「…アンタが言うなら信じる」
「そう?」
イルカとは対照的にカカシの応えは軽い。
その先を言うか少しだけ迷い、結局カカシは一人仕舞い込んでいた秘密を口にした。
「前世で、オレはイルカの事が好きでね」
イルカの目が大きく開かれる。口を開きかけ、ぎゅっと噛み締めたのが印象的で、カカシはこの話題を後悔したが、やめようとは思わなかった。
「好きで縋って、大事に出来なかった。イルカを何度も泣かせて、一つの約束も守れなかった。そういう記憶があるのよ。初めはあの人とお前が同じだと思わなかったから油断してこんな事になってるけどな」
「何が言いたいんだよ」
「ん? んー。俺が好きなのはその人で、お前じゃないって事かな」
「…サイアクだな、アンタ」
「別れる気になったか?」
「絶対、別れない」
「そう」
イルカが可哀想で、カカシは小さく笑う事しか出来なかった。
前世の話が本当なのか妄想なのか、カカシにも分からない。
なにせ夢の中の事だ。
ただ硬く堅くしがみついて離さなかった代わりに、俺が死んだら自由にしてあげますと、約束をした。
結局あの人との約束は何一つ果たせないのか。悪いとは思うが、選んだのはこの子だ。
だが自分はこんな風にしか生きられないらしい。
「ならずっと、離れなさんなよ」
ゆっくりと手を伸ばす。
肩を抱いてカカシからキスをすると、イルカは驚いたように目を見開いた。
唇を噛み締め、
「こっちのセリフだよっ」
両腕で堅く抱きしめて来る。
この愛しい生き物を今度こそ大事にしよう。
カカシはイルカの背を抱きしめ返した。
自分からイルカに触れる事を、許そうと思った。

 

季節が一巡りして、コートの要る時期になってもアパートに帰ると安っぽいドアの前にイルカが居た。
「近所迷惑なんだよね」
「合鍵があれば外で待つ必要ないよ」
「冗談でしょ」

 

ここの所、イルカは毎日食材片手に入り浸っている。
空の冷蔵庫がどうしても許せないと言っていたが、意外と美味いイルカの料理に餌付けされつつある自覚はあった。
「ゼミの教授に大学に残れって誘われてるんじゃないの」
相変わらず夢は見る。
だがこっちが現実でもいいんじゃないかと、カカシは思い始めていた。
「教師、やりたいんだ。小学校とかの」
コンロに火をかけるイルカは優しい横顔をしていた。
「笑われるかも知れないけど、夢を見るんだ、最近。なんか、ちっちゃな子が泣いてるような」
そういう事か。
「いいんじゃない」
カカシが探していた子ども達が、やっと追いついてくるのだ。
「意外に可愛いもんだよ。教え子ってのもね」
この世界があの子達に優しい事を願って、カカシは目を閉じた。


おわり
PR


忍者ブログ [PR]

graphics by アンの小箱 * designed by Anne