大事なものは手に入らないと知っていた。
というか、要らない。
欲しくない訳ではないが、むしろ邪魔。
「こんなとこで何してんですか、アンタ。浴衣一枚じゃ風邪ひくでしょ」
借家を抜け出して庭の置石の上に腰掛けていたイルカは、呆れたようなカカシの声に振り向いた。
改めてよく見ると、この上忍はかなりいい男だ。
その上、忍としての才能も有り余っている。同僚達の信頼も厚いし、上層部に一目置かれてもいる。
つくづく残念だな、と思う。
「たまには外に出ないと、体が鈍るかと思いまして」
「鈍った体をどうにか出来るほど、体力戻ってないでしょうが」
「そうみたいですね」
「アンタね」
「でも歩けないことはないし、身の回りのことも一人で出来ます。もうカカシさんに居ていただく必要はありませんよ」
「ああ、そう。じゃ、ともかく家に戻って下さい」
「ええ」
イルカは体の重心に気を使いゆっくりと立ち上がった。
カカシが見守る前で、一人家へと戻っていく。
そしてカカシを待たず、ピシャリと引き戸を閉めてしまった。
「頑固だね、ほんと」
頭をかいてカカシが後に続く。
通いの者が夕餉を作っているので、イルカの言うとおりカカシが付き添う必要ははじめからなかったのだが。
「俺が側に居たいってだけじゃ、理由になりませんかね」
中から鍵を閉められてしまったので、カカシは扉の外から声をかけた。
「迷惑です」
鍵を開けて貰えないので、仕方なくカカシは忍び込んで夕餉を一緒に食べた。
「アンタ、なんでオレに頼らないの?」
「この里で一人ぐらい、貴方を頼らない相手がいてもいいんじゃないですか」
「そんなもんですかね」
「そんなもんです」
一緒に歩きたいとは言えない。その程度の意地かもしれない。
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