忍者ブログ
0.01
カレンダー
04 2024/05 06
S M T W T F S
1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31
バーコード
ブログ内検索
アクセス解析
Twitter
[95]  [94]  [93]  [92]  [91]  [90]  [89]  [88]  [87]  [86]  [85

[PR]

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

カカイルSS:梅雨の晴れ間

カカイルSS。
いつもと違う感じにしょーもない話です。
しょーもなさだけがいつもと一緒。


…つまんないのは見逃してください(涙)

 







『梅雨の晴れ間』 (by hana)



人は幻想を夢見る。
彼は夢そのものだった。


「いい天気ですね」
気軽にかけられた声に、イルカは洗濯物から顔を上げた。
先ごろやっと入居した、一戸建てだ。
とはいっても狭い一軒家に洗濯物を乾せる程度の小さな庭がついている程度の『一戸建て』。
これでもイルカの歳と社会的地位を考えれば贅沢な代物だった。
半分は、公費。つまりアカデミー職員に貸し出されている官舎の一つだ。
本来なら家族向けの物件だが、独り者のイルカが上手く借りられたのは偏に立地条件だった。
この辺は僻地なのだ。
勿論、アカデミーからも遠い。ということは、里の中心地から遠いということでもある。
しかも回りに家屋の影もない。人里離れた一軒家という奴だ。
戦忍は任務で嫌というほど人里離れた土地に野宿するので、里に居る時くらいは喧騒を恋しがるし、アカデミー職員は当然飽和しきった職務を回すため残業前提の職場のこと。通勤時間短縮が一番にくる。
どちらにしても、独り者なら里の中心地に近い集合住宅の方が人気物件だった。
とはいえ一応一軒家。戦忍の中には喧騒を好まないものもいる。
猫の額ほどとはいえ、庭付き一軒家が借りられたのは、先住者であった変わり者の戦忍が殉職し、たまたまイルカの順番とかち合ったというだけのことだ。
住み始めてまだ数日だが、忍の耳でもってさえ針の落ちる音一つ聞こえないこの環境で、近所の人間が散歩がてら挨拶するなどあり得ないことだった。
「はぁ、そうですね」
案の定、上げた顔の先には、近所どころか、里に居ることは分かっていてもどこに住んでいるのかさえ分からないはたけカカシ上忍が眠そうな顔で立っていた。

彼がまぶしそうに空を見上げる。つられてイルカも空を見上げた。
確かにこの季節には珍しい、すこぶるいい天気だ。
休日なのをいいことに、イルカは溜まった洗濯物をまとめて洗い、小さな庭いっぱいに乾していた。
「散歩でもしませんか?」
カカシが照れたように笑う。
まだたんまりと残っている洗濯物を見事にスルーして。
なにを勘違いしているのか、この人は度々僻地で一人寂しく暮らしているイルカを訪ねては、こういう他愛のない誘いをかけてきた。
「お断りします」
「あ、そうですか」
そして断ると、世にも悲しそうな、そう、捨てられた犬のような顔をするのだ。
まったく必要ないのに、そんな顔を見るたびごとに、イルカは罪悪感にかられた。
友人でも、同僚でも、仲間でもない、ただの通りすがりの赤の他人のために…!
赤の他人というのはさすがに言いすぎか。知人程度ではある。彼は、イルカが目に入れても痛くないほど可愛がっているナルトの師匠だった。
ナルトの話を聞いていると、かなり怪しいが。
「すみません、カカシさん。洗濯物がたまっちゃってて。これを片付けない事にはどうも」
イルカは苦笑してカカシに笑いかけた。
忙しいんだから早く通り過ぎてくれよ、という本心は、欠片もみせなかった。
「あ、それならオレがやりますよ」
「…はい?」
「『風遁』ッ」
術を使う声だけは恐ろしいほど凛々しくカッコイイ。イルカはうっかり見蕩れた。
ふわっと乾した洗濯物が風に舞い、積んであった物まで宙に舞う。
それらがくるくると空を舞い踊ったかと思ったら、すべて軒先の縁側におかれていた。
きちんと畳んであるところまで芸が細かい。
「それじゃ、行きませんか?」
「…は?」
「洗濯物は片付いたでしょ」
「・・・」
確かに片付いた。だがどうにも納得行かない。
イルカは引きつりそうな顔面筋肉を酷使して笑顔を浮かべた。
「すみません。ほかにも色々あって、今日はちょっと…お付き合いできません」
遠慮がちに、だがはっきりと断る。
カカシはまた捨てられた犬のように悲しそうな顔をした。
「オレに出来ることなら、」
お手伝いする、といいかけたのを最後まで言わせず、
「無理ですから!」
と断る。
「あの、じゃぁ、」
お茶だけでも、と言いかけたのを遮るように、
「忙しいので」
とにっこり笑う。
カカシはがっくりと肩を落とした。
「イルカ先生」
「はい?」
「まだ怒ってますか?」
「はは、まさか」
怒ってるにきまってるじゃないか。
この男は、半月以上もイルカの独身集合住宅に住み込んだ挙句、イルカの誕生日にサプライズパーティを計画して集合住宅を半壊させたのだ。
住人は当然出てかざるをえず、その大半は里の中心地から少し離れた空き室に転がり込めたのだが、元凶となったイルカは獣さえ通わぬ里の隅っこにあるボロ屋に追いやられた。
家のボロは責任を取ってカカシとその後輩らしい男に修繕させたが、心の傷と引越しの苦労、通勤時間の大幅な延長を簡単に許せるほどイルカの心は広くない。
「すみません。アナタに喜んで欲しくて」
「そうですか」
二人の間を沈黙が通り過ぎる。
口の先から生まれたようないい加減なカカシでも、さすがに言葉につまることもあるようだ。
神妙に俯く姿を見て、イルカは大きくため息を吐いた。
「次からは回りに迷惑をかけるのは止めてください」
「…許してくれるんですか?」
「そんなわけないだろ」
甘っちょろいことを抜かすカカシをギロリと睨みつける。
「許さなくても、アンタは好きにするんでしょう。俺も好きにするだけです。今日は本当に忙しいんで、アンタの遊び相手は無理です」
「そうですか」
カカシは今度こそ諦めたように小さく笑った。布で表情は良く見えないが、自嘲の気配は分かる。
「でもメシを食いにくるぐらいはいいですよ。一人も二人も作る分は変わりませんから」
カカシはピクリと身体をゆらし、困ったように頭をかいた。
何か言いかけて顔を上げるが、言葉が出てこない。
「土産、忘れないで下さいね」
腕を組んで仁王立ちになったイルカがダメ押しすると、今度は困ったように小さく笑った。
「アンタ、やっぱり甘過ぎるね」
「根負けしただけです」
「そこが甘いんだよ」
「お望みとあらば、厳しくしますが」
「わ、待った! 反省します。すみません」
カカシが深々と頭を下げる。そこでさすがのイルカも油断した。
組んだ腕を解いて口を開きかけたところを、カカシのタックルを受けた。
「ちょっ、なにすんだ!?」
抱きしめられたまま二人で地面に転がり、イルカが手足をバタバタとさせる。
「これ以上、アンタの説教を聞きたくありません」
「なんだと!?」
「少しでいいから、優しくしてくださいよ」
耳元で、ぞくりとするようないい声で囁かれ、イルカは真っ赤になってカカシの頭に拳骨を落とした。
「ほんとに油断ならないな! さっさと出てけっ!!!」
次いでカカシを蹴り剥がし、もっともカカシの方もそれに合わせて身を引いたようだが、真っ赤になったイルカが耳を押さえてがなりたてると、カカシは悪戯っ子のような目をして、ぽん、と一歩退いた。
「土産は期待していいですよ」
「~~~~~っ」
悪びれない男に、「二度と来るな!」と怒鳴りつけようと思ったのだが、言葉にならない。
言ったらまた鬱陶しいほど項垂れる。その無限ループはイルカにもキツイ。
そしてなにより、犬の躾は『飴と鞭』。
「期待、しますからねっ!」
それでもムカツキは抑えきれず怒鳴りつけると、カカシは満足した様子で姿を消した。



…どっと疲れた。
なんなんだ、あれは。ナルト達子どもより手に負えない。
「なんだって俺なんだよ…」
懐かれるような心当たりはまったくないのに、気がつくとカカシに付きまとわれ、いまや火影にも渋い顔をされ里の端っこに追いやられたイルカは、大きくため息を吐いて空を見上げた。
嫌味なほど晴れ上がった、梅雨の青空だった。






彼の甘さに安心する。
ここに居場所があると夢をみる。
死ぬまでの間でいいから…。

「なんて言ったら、二度と来るなって怒りそうだな、あの人」

青空を背に、カカシは軽やかな足取りでイルカの好物を買いに走った。



-------------------------------------

…すみません(涙)
PR


忍者ブログ [PR]

graphics by アンの小箱 * designed by Anne