『小さな灯火』 (by hana)
「ねぇイルカ先生。あんたは嫌かもしれないけど、俺はあんたとこういう風になるのは嫌じゃありませんよ」
薄明かりの閨の中で、上半身を起こしたカカシが、うつ伏せになって顔を隠しているイルカを愛しそうに見つめた。
「なんで、後悔しないんですか」
「なんで後悔するんですか」
「困るでしょ。こんなの」
こんな、気持ちが整理しきれない。イルカの中でカカシが一杯になって溢れそうだった。
「俺は、アンタのことそんなに好きじゃないのに、こんなのおかしいですよ」
普段はきっちり結ばれているイルカの髪が、ほどけて背に散っている。それに手を伸ばし、カカシは優しく髪を梳いた。
「あんたが思うより、あんたは俺を好きだと思いますよ」
「嘘だ」
頑なに否定するイルカ。
でもカカシには、イルカに好かれているとしか思えない。
もう大事なものなど何一つ残っていないカカシの腕の中に落ちてきた、暴れ馬のような子ども達。ちょっとでも目を離すと、どこに行ってしまうのか分からない。あの小さな、火の子ども。
カカシは任務なら殺さなければならない。でもイルカは、そんなことはさせたくないんだと、体を張ってカカシの首についた紐を、切ろうとしてくれた。
カカシには首輪がついている。
いつまたそこに紐がつけられるか分からない。
殺せと言われたら、カカシは殺す。どんな非難を浴びても。でもイルカはそんなカカシを惜しんでくれる。
惜しまれる自分がいると思うと、カカシの中に不思議な感情が生まれていた。
簡単に、捨てられないよな。
例えば、九尾を抱えたナルトとか。
例えば、復讐に捕われ真っ黒になったサスケとか。
例えば、二人を案じて、二人の為ならその身を投げ出しかねない、一途なサクラとか。
例えば、この、手の中にある、愛しい、たった一人の人だとか。
「いつかでいいですから、俺を見て下さいよ」
カカシが囁きかけると、イルカはびくりと肩を揺らした。
しばらくカカシにされるがままに髪を撫でられている。
心臓がどんどん痛いほど鼓動を高めた。
イルカはそろりと顔を上げ、カカシを見た。
「カカシさんしか、見えない世界は、俺は嫌なんです」
イルカが愛しい。
そんな風に思っていてくれるのだ。
カカシは身をかがめて、ゆっくりとイルカを抱きしめた。
「それでも俺を見てください。俺だけなんて言わないですから」
イルカは随分長いこと戸惑ってから、その両腕をカカシの背中に回した。
PR